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物語同士のつながりが好き

~だから私は推しました第8回~未来へ背中を押してくれた愛の話

<あらすじ>
事件当日、本当は何があったのか?
その真相に迫らんとする刑事・聖護院。
そしてハナと愛の行く末はどうなっていくでしょうか?


<握った手>
誘拐されて瓜田を突き落としたのはハナではなく愛さん。
彼女はハナをライブに行かせて、そして自分が罪をかぶるために出頭していました。
問い詰めていく聖護院でしたが、愛さんはなかななかそれを認めません。
そこにあらわれたのは舞台衣装そのままで駆けつけてきたハナ。
ここからの二人のやりとりがめちゃくちゃいいんですよね。
ハナが握手しようとしてそれを拒絶する愛さん。それでも握った手。

 

この時愛さんの中でいろんなぐちゃぐちゃした感情が渦巻いてたんだと思います。
自分が身代わりになっても構わないと思えるアイドルが来てしまった事への動揺と怒り・悲しみ・やるせなさ。
握手を拒否したのは、ハナからの最後のお別れのように愛が無意識に感じたからなのかな?と思います。

 

前回で愛さんはいじめ問題に自分は口をはさまず、どうすればいいのかハナちゃんの決断にちゃんと委ねていました。
ちゃんとこの時は相手と自分の一定のラインを守っていたんですよね。けっして「共依存」にはならずに。
だけど今回、愛さんがハナちゃんの罪を被る事はそのラインを超えています。
時間稼ぎまではいい。アイドルの最後のライブはこの日にしか行えない。
それをトップオタとして守り抜く。
オタとして彼女がしていいのはここまで。
それ以上は瓜田と同じになってしまう。
愛さんと瓜田は紙一重。二人とも一人のアイドルへの感情がものすごく大きい。
「なんで気づかないんだ!!」と叫ぶ瓜田と「なんでここに来たの?」と思っただろう愛さん。
どちらも相手の意見や生き方を無視していると言えます。

 

確かに愛さんはラインを越えました。だけど、だけどですよ。
今回ハナちゃんがそのバランスを取り戻しにきました。
松田さんに会いに行くのが間違いかどうか愛に聞いていたまだ不安げなハナちゃんが。
自分の足で。自分の意思で。
ちゃんと自分のやったことは自分が背負っていくのだと表明するために。
庇おうとしてくれた愛のために。
バランスを崩しかけた愛さんの手を握ってくれたのは今度はハナでした。
(それと何度、振り払われても握ろうとしてくれる小豆君も)

 

<変化したもの>
ハナの監禁ニュースはネット、週刊誌、テレビにまで拡散されていきました。

「女ヲタによる過剰な投資」「考えが大変、幼稚だっていうこと」

それらにのる情報は一見すると事実のようだけど、そこに流れる文脈には理解がない。
真実とは限らない。
だけどそんな世間の「反いいね」をもらっても今の愛さんは気にしてない様子。
会社を実質、首になってもどこか吹っ切れた感じですね。
一話の彼女からは考えられないほどの変わりよう。
ハナちゃんは愛さんと出会って変わって生まれ変わったと言ってましたが
きっと愛さんもハナちゃんと出会って生まれ変われました。


<推すって…>
ハナちゃんの不起訴祝いをベースメントで行うサニサイのオタ達。
そこで最後のライブの日の上映会が行われました。
映像の中でハナは次のようなことをいっています。
「自分は寂しくてアイドルになったヤツだからもう皆さんと会う事はない。
もう満たされてしまったから。」
「皆さんが教えてくれた『推すって愛だ』。それを今度は誰かに感じさせるような生き方をしたい。」

私はハナちゃんがアイドルに未練がまったくないといえばそうではないと思います。

けどここでファンに残す言葉は心残りではなく未来へ向けた言葉。
そして満たされてしまったのは本当で、だからこそ今の自分は過去の自分がしてきた事に向き合う力ができた。
このステージでアイドルの栗本ハナは消えてしまう。
それでもファンの人が推してくれた事、自分がここで感じた事はは永遠に残り続けるし、
いつかその力は誰かの背中を推してくれる。

それはサニサイ最後の優しい陽だまりのような素敵なスピーチでした。

<一年後>
解散後はそれぞれの道へ。
花梨ちゃんは新しいグループのメンバーとして活躍中。
彼女のインスタには元サニサイメンバーの詩織ちゃんとと紀子ちゃんも!
凛怜ちゃんはどうやらレポーターに。夢を叶えてますね。
アイドルは夢への踏み台と周りに配慮がなかった時期もありましたが
それに気づけた事で結果的にはレポーターという夢に逆に近づけたような気がします。

 

愛さんはというと会社を首になったあとは椎葉さんの事務所で働いている様子。
それからベースメントでも相談役というかバイトしているのでしょうか?
アイドル達へのアドバイザーも兼ねている感じも。
椎葉さんの事務所で働いているだけあって、法律の知識をみにつけているみたいです。

 

そして……。
小豆くんから届いたLINEに映っていたのは、
松田さんと並んでほほ笑むハナちゃんと姿でした。

地下の小さな太陽だった彼女はそこから飛び出し、
自分の暗闇と自分が作り出した闇の中にいた少女を確かに照らしていました。

 

 

彼女達の未来が明るいものでありますように。