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今いる僕らは、名もなき民の轍の上に~おんな城主直虎43話~

おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]

武具の手入れを丹念に行った事が認められ、小姓にあがることができた万千代。
今回、他の小姓達に冷たくされながらも奮闘する万千代を見る事ができました。
一方、井伊谷では長篠に木材を届けた事がもたらしたある問題について書かれています。
万千代の話も井伊谷での話も戦後処理といいますか、華々しい戦のあとに比べれば地味だが大切な作業が書かれています。
「植林」も「論功行賞」。どちらも怠れば次の戦の火種となりうるものです。
そう考えると戦が終われば、次の戦へをさけるための戦いが始まったといえる回だったのではないでしょうか。


<恋と忠義>
まずは、万千代サイドから。
いっそのこと、色小姓になってしまえば?と提案された万千代ですが、自分の力で功をあげたいからと断ります。
今回、小姓の仕事がなんたるかが説明されていました。洗顔や、歯の手入れ、髪を整えたりと。
こうみるとだいぶ信頼関係がないとできないんですよね。というかここで信頼関係を深める。
幼年というには年を重ね、だけど大人というにはまだ幼い。そんな年ごろの家臣の子ども達が、主君と信頼を重ねると同時に政治を学ぶ場だったのでしょう。
いまでいう、政治家をめざす若者が議員秘書をしている場所のようなものでしょうか。
主君のほうもできるだけ多くの信頼できる部下をここで育成することができます。

 

その中でも、「色小姓」というのは肌を直にふれさせるほどの「信」をその者に置いているという側面があったのではと思います。精神的にも肉体的にも絆を結ぶことで。
だからこそ他の小姓は万千代の寵愛発言にたじろいでしまいました。
戦が絶えない世の中で暗殺もあるとなると、その価値はだいぶ高いように思われます。
このお話のなかでは万千代と家康の間に色恋や性愛はないように書かれていますが、古来男性同士のカップルの強い軍隊があったように
恋と忠義が一緒になると、とてつもない働きを戦場で見せるのでしょう。
それをプラトニックに高めるとこまで高めたのが政次であったように思います。

<禅の教え>
新人だというのに他の小姓たちから仕事の指示をもらえない万千代・万福コンビ。なにかやれることはないかと自発的に動きます。
草履番をやってたおかげで、雨でぬかるんだ地面を平らにしたり、論功行賞のため普段よりも人が多く登城することに気づき、いちはやく動く事ができました。
そして家康が家臣への手柄について悩む様子をみて万千代は表にして整理すると提案します。
出来上がったものは見事に縦軸と横軸を使い、わかりやすいものでした。

 

ここのシーンを見ていると、どこで万千代はこんな技術を学んだのか?草履番で整理する事を学んだのか?と思いましたが、
それだけではなく禅寺で過ごした事が生かされているのでは?と思います。

「一 掃除、二 信心」というくらい禅では掃除に重きをおいているので。
その禅寺で教育を受けたおとわ自身も、万千代が草履番の時に名札を貼ればよい、とアドバイスしていました。
万千代は家康に信を置かれているおとわに、嫉妬めいたものをかんじていましたがやはり似たとこがある二人といえます。

<先人たちの彼方には>
一方、直虎サイド。長篠の戦で木を伐りすぎたせいで、山の保水力を奪ってしまったのでした。
これでは、災害が起こるだけではなく河川の氾濫をまねき食力自給率も自然と下がってしまいます。
百姓達は、武士の勝手でそうなったのに、なぜ植林という事業をこちらがしなければならないのか不満げです。
これに対する甚兵衛が「山の前ではみなただの人。山は武家だろうと百姓だろうと区別しない。」
というようなことを村人達に言います。ここ、かっこいいですね。

 

そして、なんで甚兵衛がそいうことをいってくれるのかといえば、直虎と積み上げてきた信頼関係が元になっています。
「徳政令」の回の時、直虎が目先の利益だけでなく未来への希望を語り、それが実を結んできたからに他なりません。
だからこそ遠い井伊谷の未来のために行動を甚兵衛がとることができる。
確かに、農作業がしながらの「植林」は百姓達にとって「今」負担になる。
だけど、直虎が見せた夢と共に駆け抜けた甚兵衛には、その「今」にやるべきことをやることで「未来」に投資する意味を知っている。

 

甚兵衛は名もなき民の一人にすぎません。だけど、彼のような人たちが、遠い未来の子孫達のために残さんとするために努力を積み重ねてきた。
私たちが見まわす日本の山々も昔からただそこにあっただけではなく、彼らの不断の努力の延長上があってこそ存在しているといえるのではないでしょうか?

<組織の成長痛>
ここで、また万千代サイドに戻ります。
彼が作った表によって、家康は武功のめどはつきましたが一つ問題が浮上します。
浜松と岡崎でどうしても差がひらいてしまうのです。
岡崎組が織田との橋渡しをうまくしてくれたおかげで浜松組は助かりました。
だけど実際に武功をあげたのは浜松組。
この辺はほんとに難しい。可視化したのはいいものの、可視化できない仕事もありその重要性もわかる。
だけどそれにねぎらう事はできない。万千代は「恩賞がなくとも、殿が知っているというだけで心強い。」と進言します。
前に、家康にそうされたことがよほど嬉しかったのでしょうね。
それを伝えるメッセンジャーに万千代は命じられます。信康はそれを聞き、苦しい立場にも関わらず快く了承してくれました。
なんていい跡取りなんだ!と今からでも泣けてきます。

 

ここのシーンはほろりとさせられるだけではなく直虎ー甚兵衛と家康ー岡崎組との距離の差が書かれているように思いました。
直虎は泥にまみれ、甚兵衛達に直に訴えかける距離にいました。甚兵衛は、上の人間が見ていてくれること、一緒に悩んでくれる喜びを得る事ができたのです。
だけど家康の場合、徳川はもう組織として大きくなりつつある。
直接、家康がいけばほんとは感激されるかもしれない。けど今はもうそんな事はできない。
どちらも

「清風払名月名月払清風(せいふうめいげつをはらいめいげつせいふうをはらう)」

の心があるというのに。
成長していく「家」の主である家康と、その「家」を捨てたからこそ自由に民のために動ける直虎。
家康は様々な者達の「家」の欲をコントロールせねばならず、自分の欲のまま動けない。両者の違いは見ていて面白いです。
といっても、信康はできた人間なので岡崎の不満を父に代わり治めていくと思います。

組織が大きくなればなるほど、トップとダウンの距離が開けば開くほど、上の意思を汲みつつも、下への配慮を忘れずやっていける彼のような人材が必要になってくるでしょう。
(というか、彼にすまないがこらえてくれと頭を下げれたりしたら、ぐうの音もでない。)

<おまけ>
木材のことがよく出てくる大河ですが、ここまでみると「もののけ姫」を思い出します。
奥深い山林に住む者達と人間の生存競争と共生への道。
今見返すと、また違った想いを抱いてみることが出来そうです。
それと林業についての物語なら「WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常」もいいです。

 

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