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伝奇小説の奥深さというか、すごい世界を見てしまった。~柳生陰陽剣~

柳生陰陽剣 (新潮文庫)

慶長十一年、死の床にあった柳生石舟斎が言い遺した言葉。それは、枕頭に侍っていた新陰流の達人にして、陰陽道の術客でもある柳生友景に、朝鮮妖術師との新たな死闘を覚悟させた。古代よりの怨讐をこえて魔界の王を味方にし、魑魅魍魎をも従えた友景は、後水尾帝の陰陽頭となり、この国を陰謀に陥れようとする者どもと対峙する。痛快無比、奇想天外の歴史大活劇。
(「BOOK」データベースより)

朝鮮半島が舞台の伝記作品を多く手掛ける荒山徹さんの作品です。

難しそうだと思われそうで、実際まぁ、このジャンルを読みなれていないと、とっつつきにくいかもしれません。
だけど上記の内容紹介からもわかる通り、かなりぶっとんでて「なんじゃこりゃぁ!」と楽しみつつもつっこみながら読みました。

 

簡単にいえば、秀吉の朝鮮出兵の恨みをはらさんとし、日本を混乱させようとする朝鮮国王の光海君と妖術師達。そんな彼らと死闘を繰り広げるは主人公の柳生友景。
彼はもともと強い美形の陰陽師かつ剣士で、さらに日本三大怨霊の一人である崇徳上皇からのパワーをもらって無双しまくります。
自分で書いてて、この時点でぶっとんだ設定だと思いますけど、これだけじゃなくて、オスカル・アンドレという名の美人女性剣士が出てきたり、
秀吉の側室である淀君のクローンが作られ、偽の淀君が豊臣を掌握して世の中を混乱させます。
使い魔も「モスラ」がでてきて、もうなんでもありだな!!って感じで、普通なら話が壊れていきそうなんですよね。
けど、作者の荒山さんは日朝どちらも深く知識があって、奇想天外の物語にもかかわらず、背景の強度に説得力があって、最終的に力業で納得させられるというか。
これだけの「虚構」に騙されても悔いなし!とおもわされるのは、ほんとすごい。

 

 

<強さと孤高の先へ>
というか、最後の方のシーンとか泣かされたんですよね。
主人公の友景くんの敵役として、柳生眞純という朝鮮生まれの日朝のハーフの男性がいて、
彼は自身のアイデンティティが社会的に受け入れらない孤独を抱えていました。
まぁ、文禄・慶長の役のあとなんで、日本人の血をひく彼は周りから疎まれる。
剣の才能があり、それを伸ばす環境にいた彼はひたすら強さを求めていきました。
共同体からはぶれてしまうので、生き抜くためには、それに頼らず、自らの強さをひたすら求めていくんですよね。
その孤高のなかにいた彼が、友景という対等かそれ以上に強い存在に出会うことで、救われていく。
私は「共同体からはぶれてしまった人の生き方」というテーマを追ってるんで、思わず彼の人生にぐっときてしまいました。

 

 

<秀吉と家康の外交戦略>
戦国時代の話というか、秀吉と家康はずいぶん対アジアの戦略が違うなと感じます。
秀吉が耄碌していたとか、「武家」が領土を拡大しなければ家臣に与える土地がないからという理由で出兵したというのを、話の中で見るけど、
「明」の後ろ盾がある朝鮮を攻めてる。すごくなんというか老舗の日本向けの企業が突如、グローバル競争に目覚めたように感じます。
秀吉の大陸へのビジョンはどうなっていたんだろう?どこまで国際情勢を把握していた?勝算はどこまであったのか?とかいろいろ考えてしまいます。
いや、思い込みで「えいや!」とつっこんでいける時もあるとは思いますけど。
そんな彼に対して、家康は朝鮮と国交をすばやく回復させ、内政の方に力をいれていて、この二人はかなり国造りにおいて方向性が違うんですよね。
家康はやっぱり、海外なんか目指さず、日本人向けにやっていこうぜ!って感じます。
うーん。ちょっとこの辺は勉強不足すぎて、修行が必要ですね。

今、大河を熱心にみてるんでこのへんが気になってしまいました。