シェヘラザードの本棚

物語同士のつながりが好き

逃げていい。嫌いでいい。許さなくていい。闘ってるから、闘わなくてもいい。~かがみの孤城~

かがみの孤城

 あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

amazon内容紹介より

 

 

青春ファンタジーミステリーになるのかな?
お話の前半は九時から十七時まで鏡をすり抜けて訪れる事が出来る城で、あるミッションを仲間達とこなしつつ仲良くなるところにわくわくしました。
ラストのほうは、もう怒涛の展開に号泣。思い出しても涙が出てきます。

 

<学校の人間関係の圧倒的描写力>

辻村深月さんの中・高の舞台がお話は、あの頃の閉ざされた空間の手触りをありありと思い出させてくれます。
普段はそれが心の底で眠ってますが、黒板消しを持って窓の外で叩いておとす時の匂いや、授業が終わる五分前のそわそわ感とかそういうの。
それはほろ苦い温かいノスタルジーだけでなく、ひりひりした痛みも連れてきて。

 

あの頃、家庭か学校が世界のすべてのように思えたんですよね。
だから、今も昔もこれからも学校という政治ゲームの一面がある場で「いじめ」という生贄として選ばれると、この世界のどこにも自分の生きていける場所がないように感じてしまう。
私自身、仲間内からいじめられるという事はなかったけど、グループ外のクラスメイトから見えにくいタイプのいじめ(机を少しだけ離す。少しでも触れたらハンカチでふくなど)を受けた事あるので、学校で生きづらくなってしまう気持ちはよくわかる。
クラス内の政治ゲームは、ほんと繊細で気を使うものでちょっとしたことではぶれてしまう。
あれだけ仲良しに見えてた女の子が次の日から無視される。
そのグループ内の話で済ませばいいけど、自分達の内部抗争を他の男子のグループを巻き込んで集団的に無視させたりするのとかは、ほんとぞっとした。
男の子があれほど笑顔でその子に話しかけてたのに次の日からあいさつもしない。
といっても徹底されてたわけではないので、その子はなんとなくちがう女子のグループに溶け込めていったんですけど。

 

けどそれをやってる側って明確な悪意はほぼないケースばかりじゃないでしょうか。いや、あるのはあるけど、殺意といえるほどの憎しみがそこにあるかといえばそこまではない。
主役の安西こころを追い詰める真田美織のように、集団で家に押しかけても悪気はなくて、自分の方に義があるとさえおもってるとこさえある。
そんな美織とこころはまったくわかりあえない。もう、違う別世界の生き物のように感じてしまう。話が全然通じないんですよね。
美織は軽い気持ちだけど、そうやって悪意をぶつけてくる人を、中一のこころが理解する必要も許す必要もない。大人になっても許さなくていいと思う。
だけど、こころにもそういうところがあって城の仲間を知らずに傷つけているし、上から目線なところもある。
けど、城の仲間とはちゃんとわかりあえたんですよね。
なんというか「わかりあえなさ」もこの本の中にはあるけど、それだけじゃなくて「わかりあえる可能性」もそこにあるようで、矛盾してるけどその二つがしっかり共存してる。
そこがすごく好き。別に大人になっても「わかりあえない」人間はたくさんいて、ただその人たちとは「上手く」付き合ってるに過ぎなかったりするので。
けど、分かりあえることも奇跡的だけどある。可能性が限りなく低いだけでまったくないとはいえない。
まぁ、わかったところで自分に悪意をぶつけた人間を許す必要もないし、嫌いなままでもぜんぜんかまわないと思いますが。

逆もあるかもですね。憎んでないけど理解できないとか。

だからこの作品は子供向きというだけでなく大人向けでもあると思います。

分かり合えなさを抱えながらも「今」生きている大人にむけての。

 

 


<余談>
どこかファンタジーな世界で、自分自身の問題と向き合ってっていくのは水城せとなさんの「放課後保健室」を思い出します。
こちらは、性と自意識が絡んできて「かがみの孤城」とはタイプがちがうけど傑作。

あと、今の自分が過去の自分を救う?といったらいいのかな。そういう意味では、「ウォルト・ディズニーの約束の約束」も良いです。

 

放課後保健室 1

放課後保健室 1