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生徒会ものとお仕事ものの中間点に~ある日うっかりPTA~

ある日うっかりPTA

基本的にPTAというのは学校ごとに――これを専門用語で単位PTAというのだけど――独立した組織だ(PTAの常識 その2)。戦国時代の日本は、各地に大名がいて、それぞれに違った組織や、家訓と呼ばれる法律を作って勝手に領地を運営していた。あれに近いものと思って下さい。 (ある日うっかりPTA)

さて、組織とその中で働く人間模様を書くものとして、
「1518! イチゴーイチハチ!」青春ストーリーとあわせて書くなら生徒会もの、
警察でも企業でも、ある一つの部門を軸に動いてくお仕事もの、
それがもっと大きな組織という生き物になって色んなセクションが絡み合い、初見ではわかりにくいつくりになっている「シン・ゴジラ」があります。

この生徒会ものとお仕事ものの中間層にあるのがPTAものな気がします。

仕事で得る給料や、生きる糧を得るためにやっているわけではなくあくまで自主的でありながら、学生が運営する生徒会ほどウエット感がない。
上手く言えませんが、情と仕事の比率の問題で生徒会は情が大きく、PTAは仕事の割合が大きく感じるんですよね。あくまで個人的な感覚ですけど。

 

 

 そのPTAのトップである会長職に3年間勤めていた著者の松江さんの体験談です。
すごく面白かったです。PTAというとなんとなく独特な組織のイメージがありますが全然そんな事はない。
何かしらの組織に属していれば、身に覚えがあるような問題に松江さんは取り組んでいってます。
ある日うっかりPTAとなってますが、読めば着々とフラグを積み重ねていっているのがわかります。
フリーライターという職業柄、ちょくちょく日中に学校に顔を出しやすいのもあって、他の保護者の人達との交流もばっちり。
式辞を述べる時、来席した先生と正反対の事をいってますがその内容がいい。
というか、それを聞いた人は先生と反対の意見を言うことで全体の意見のバランスをとったようにみえるんですよね。プラス権威に媚びてないよう感じるし、その割に言い方は攻撃的でなく穏やか。
(松江さんの主観的目線かつその場の雰囲気とか声色もあるとは思いますが、読んでる限りそう推測されます。)
そりゃあ会長に推薦されるだろうな、という感じがひしひしと伝わってきます。
松江さんはご自身の事を、協調性がないとおっしゃってますが、むしろある。だけど同調圧力や精神論で個人が損なわれるくらいならそこから抜け出していく人なんだなと。
だからこそ、チームプレイを大事にしながらも、裏のスローガンは「がんばらない、をがんばろう」
人を鼓舞するというより、松江さんは組織の仕組みを変えていこうと努力します。
だけどその道は前途多難。そしてあるある話でもあって。

 

例えば
外から見るとわけのわからない村内ルールの存在。
「今」にそぐわなくとも、なんとなく「みんなが」「昔から」ずっと続けている慣習。
縦割り行政で、管轄が違うから連携が取れないという現状と、その現状を事実だと思い込み人が動かなくなる現象。
そして仕事をする上で、出てくる不平等感と人員確保の難しさ。

 

もうほんと日本中どこでも見かける問題が浮上してくるんですよね。
昔なら、それでもやっていけたかもしれませんが、いまや働き方、生き方は多様化してます。仕事ならいざしらず、自主性で動くPTA。
その中で、できるだけ多くの人を巻き込んでいける「場」を作っていく事がこれからの鍵になっていくかもしれません。
ずっとは無理だけど、ちょっとだけなら手伝えるという人はけっこういるのでは?と思います。
軽妙な語り口で書かれているのでさくさく読むことができました。なのにいろいろと考えされた本です。

<余談>
こういった組織とその中の人間模様にフォーカスを当てたのが、去年と今年の大河である「真田丸」と「おんな城主直虎」ではないかと。
なんだろ?英雄ってより組織人として偉人をとらえてるような?だから、遠い時代の話なのにどこか身に覚えがある感じがして。
そういや「PTAグランパ!」もNHKで放送されてましたし。
再来年は、オリンピックが題材なこともあって、よりそこら辺に話がいくんですかねぇ。
いや、その前に「西郷どん」もあってどうなるのでしょう?
けどほんと英雄譚をうまく解体して現代の組織劇に再構成する、というのはうまく成功すればそのままフォーマット化できますね。

 

 

PTAグランパ! (角川文庫)

PTAグランパ! (角川文庫)