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そうせざるをえない者達~おんな城主直虎30話~

おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]


とうとう武田との全面戦争が回避されなくなってきました。今川家はそのための準備にとりかかることに。
直虎は徳川との密約を水面下で結びつつ、氏真に命じられるまま戦備えをします。
その氏真に呼び出された方久は、気賀に蔵を建てる事と認める代わりに井伊家の取り潰しに手を貸すように言われます。
政令を出すことによって。
今回からつらい展開が続くようです。誰もが必死がゆえになりふりかまわなくなってくる。
直虎は卑しさを出さずとも生きていける世を経済によって成そうとこれまでしてきましたが、マクロの情勢がそれを許さない。
その夢みたいな理想郷に至るためにはこれから多くの犠牲が伴う。未来のそれのために、今、目の前にいる誰かが傷ついていかなければならない。
そのための序章が始まりました。

 

 

<裏切っても十字架を背負わない>
さて、方久は今川が井伊家を取り潰すための片棒を担がされました。
なぜかといえば今川は、武田と戦うにあたって後方にある井伊を安全地帯にしておきたいからです。
三河と隣接しているので今川防衛ラインの要の地。ここをとられたらうかうか戦もしてられません。
だからこそ井伊を自分の直轄地にしておきたい。
そして井伊の方も沈みゆく今川という船から脱出しようとしています。
今川も井伊を切らざるを得ない、

井伊も今川を裏切らざるをえない。

そこに悪意はなく、ただただ生き残りたいという切実な思いから来ています。

 

そして、この「せざるをえない」男が方久だといえます。
コミカルな動きに見えますが、そのなかには彼の井伊への裏切りのうしろめたさや葛藤があります。
方久がここではねつけたとしても、武力で今川にかなうはずのない現状を知っています。
徳政によって潰されるか?それとも武によって潰されるか?この二つを天秤にかけたとき、現実主義の彼は前者をとる。
直親を切らざるをえなかった政次と同じ道をたどったといえる方久。裏切者にみえますがそんな彼はいまだにおとわの櫛をもっている。
その櫛は彼にとって、どん底の人生から再起の象徴といえます。
そこから這い上がってきた彼は、これまで井伊を再生させようとしてきた直虎の生命力を信じているのかもしれません。

 

我ながらひいき目でみてるなぁ、とも思いますが私は裏切ってもあとから借りを返せばいいでしょ?と思ってそうな方久が好きなんですよね。
彼は、以前にも直虎に「瀬戸村から利益を出せるようになれば、あいつら手のひら返しをしますよ。」というような事をいっています。
だから命さえあれば逆転できるし、それ以外は些細な事だと思っているのかもしれません。
彼にとって今回の「裏切り」は取り返しがつかないことではないゆえに、罪悪感を抱いたとしても押しつぶされずに十字架を背負わずにいられる。
彼の生命力がこの戦時をくぐりぬけてくれることを切に願います。

 

 

<「嫌われ者」というカードをきる事で>
方久が損得勘定があり相手と自分のWIN-WIN関係を築くタイプなら、対照的に「滅私奉公」で動くのが政次。
これまで井伊家の裏切り者かつ、親・今川派のふりをして動いてきました。
ですが寿佳尼の裏切者をあぶり出す面接から直虎がすんなり帰っきたこと、目付の自分が知らされてない情報が増えてきた事でとうとう今川に自分の正体がを見破られていたことに気づきます。
それを知ったうえで、二重スパイのような立ち位置の彼は今回、動きを見せました。
龍雲丸を使って方久をおびきだし、揺さぶりをかけ今川の目的を早々に見抜きます。
そして関口氏が徳政令の発布を命じにきたあとで、直虎達に嫌味っぽく言うことで、これが寿佳尼が仕掛けた罠である事を知らせます。
ただでさえ今川からの信用がなく関口氏の目がある以上、直虎との密会はできない。
だけどこれまで思考回路を共に合わせてきた彼らは、相手の考えを読み取ろりすりあわせようとします。
とりあえず徳世令を受け入れ、徳川に戦っていくと見せかけて関口氏の首を差し出す。
けど、ここで緊急事態が発生。百姓達が徳政令撤回を関口氏に申し出ます。
その場にいた直虎に政次は刃を向けますが、おそらくこの状況を逆手に政次は取る事でしょう。
直之でなく、六左衛門でもなく、方久でもなく、彼だからできる事。「嫌われ者」というカードをきることで、井伊家の再生の道筋をみつけようとする忠義者。
いまはただ、そんな彼の行く末を見守っていくしかありません。

 

 

<善意から生れる最悪な結果>
百姓達の徳政令撤回の申し出には、これまでの直虎と彼らのの歩みがフラッシュバックして泣かされましたが、この動きを読めなかった直虎と政次は戦術を変えざるをえなくなります。
圧倒的に彼らが善意からそれをやってることがわかるから切なくて。それだけの人望が直虎にある事が、彼女が上に立つことができるなによりの長所だから余計にやるせない。
善意からそれが始まっても、結果は最悪なことも起こりうる。たとえ百姓達の自主的な動きだったとしてもおこった「結果」によって引き起こされる責任は為政者にある。
よかれと思ってやったことが最悪な結果を導いてしまった場合、どこでそれが間違ったのか?を考えていかないといけない。
まさに、マキャベリがいうように

「天国に行く最も有効な方法は、地獄へ行く道を熟知することである。」

直虎がこれからそれを身をもって知ることになると思うとつらい。そこから再起するだけの生命力を彼女がもっていると信じてるとしても。
ほんと最近の回は、つらくて思考停止状態で自分でも何を書いてるかわからなくなっているというかポエミーになってますが、がんばって視聴していこうと思います。