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正義や権力を求めた男に最後に残ったものとは? ~J・エドガー~

J・エドガー [Blu-ray]

アメリカの物語に触れていれていようが、いなかろうが誰もが聞いたことがあるFBI連邦捜査局)。
その初代長官にて、長い間その地位に50年近く君臨し続けた続けたJ・エドガー
彼の捜査網によって得られた情報は、大統領さえも脅かすもので、彼らさえもエドガーを恐れていたといわれています。
これはアメリカの権力を握りという一面がありつつも、犯罪捜査を前進させた一人の男の光と闇にスポットライトをあてた作品です。


<科学とデータに信頼をよせて>
J・エドガー氏の事はこの映画を見るまで知らなかったのですが、見ている間、にやっとしたことが幾度もありました。
というのも私はアメリカドラマ(警察もの)をけっこう見ているほうだと思うのですが、彼の導入した「科学調査」「資料のデータ化」「指紋のファイリング」
の基礎がここで描かれているんですよね。
大ファンの「CSI:科学捜査班」をみるとひたすら「科学すごい。科学、強い。」と思わされるます。
こんなに早く検査結果がでるわけないだろ!とつっこみたいとこもありますがそのエンタメの嘘を含めても、科学への絶対的信頼が物語をおおってるように思います。
大体、この手の「事件を解決する」物語は私は4つに分類していています。

コンビで事件を追う「バディ型」
組織内政治力の中でつらぬく正義を問う「組織型」
社会の抱える闇を問う「社会派型」
クラシカルな推理に重きをおく「探偵型」

もちろんいろんなこれらの要素が絡み合って作品ができていると思はうんですけど、このドラマはそれらとは別に「科学とデータベース」に重きに置いてる印象があります。
まぁ、あくまで重要度が高いというだけで、上記の4つももちろん絡んではきます。
だけどCSIシリーズを見てると、なにかしら「データベース」にアクセスをするシーンがよくでてくるというか、指紋だけじゃなく車のタイヤ痕や虫・草花のデータとか、
なんでそんなのがあるの?というものまで出てくるんですよね。
物語上の嘘ももちろんあるとは思いますがこの「科学とデータベース」への信頼っぷりがの始まりが、「J・エドガー」の物語と繋がってちょっと感動してしまいました。

 

 

この「データベース」をつくるという発想自体がエドガーの国会図書館のカード検索から始まっています。

その彼の分類能力?というか仕訳能力を組織レベルまで浸透させた結果、捜査能力を飛躍的に発展させてるんですよね。
もちろん「科学調査」だけに力をいれたわけではありません。
彼は当時の捜査体制にもメスをいれています。
その地方の自治警察が対応していた事件を、州をまたいで操作できる権限を捜査員にもたせる事で、犯人を捕まえやすくし、事件解決をスムーズに導くことに成功しています。
アメリカの歴史に明るくないので、なんともいえないのですが合衆国というだけあってこの国は州ごとが一つの国として独立している。徳川幕府みたいな?
その分権的であった捜査を、一か所に情報をまとめたことは画期的だったのではないでしょうか?


エドガーの内面に寄り添う者達>
FBI長官という権力を手に入れたエドガーですが、彼の内面は複雑で繊細、そして矛盾に満ちています。
支配的な母親に育てられ、彼女の理想の息子であろうとして「ほんとうの自分」をさらけ出せない。

その臆病さの裏返しのごとく、人より優位に立つためなのか情報や権力への執着が凄まじく、常に疑心暗鬼です。
社会の顔はこれだけ強権的なのに、彼自身は女装の趣味があるような一面があり、同性愛者の副官がいつもそばにいます。

 

二面性を抱えるエドガーですが、彼に恋をしている副官のトルソンと一度は告白してフラれた秘書のギャンディとは、強い絆で結ばれています。
この二人への信頼と敬愛にあふれていてびっくりしまう。典型的な身内に優しく、他人にきびしいタイプ。
トルソンとの関係は、ぼやかしてかいてるというか視聴者の想像に委ねていますが、二人は恋人同士だったのでは?と思わせる描写があります。
私の中では、トルソンの片想いのままの感じがしますが。けどそうであろうがなかろうが二人はエドガーの人生の共犯者といっていいと思います。
それくらい深く自分と相手の人生をシェアできるならそれを「愛」という他ない。
これまた秘書のギャンディが良くって、エドガーとは付き合えないし結婚にそもそも興味がないといったけど、ずっと彼の傍で仕事をして絶対に裏切らない。
三人ともずっと独身であり続けました。
例え周りが敵だらけでも、これだけの絆があれば彼の人生は幸せに満ちている。権力者の臨終にしては少し寂しさが残るものだとしても。

 

それにしても、エドガー役のディカプリオさんは、すごかったです。青年期から老年期までを役の中で見事に駆け抜けて演じてました。矛盾を抱えた非常に難しい人格を矛盾させずに一つにまとめていて感嘆させられました。