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ルール(不自由)のなかで自由でいるには~おんな城主直虎26話~

おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]

材木を駿府に持ち込む事で今川家からの謀反の疑いを晴らす事に成功した直虎。
これに対してご都合主義だと思う方もいるかもしれませんが、私はどちらかというと非常に日本的な会議のまわり方を感じました。
意見に正当性や合理性を求められてるというより、それに従った方がいい空気感や雰囲気づくりが求められているところがです。
「忠義」という抽象的なものを求められたときに、「材木を届けさせる。」井伊家は今川家を裏切るわけないよね。ここまでする井伊を無下には扱わないよね。という空気を作っていたと思います。
そして、ここまでの空気を会議の場で伝染させるには、始まる前の「根回し」が重要な役目を担っていました。
この「根回し」は、今回の気賀での話に繋がっていたと思います。
とはいってもこうもはやく謀反の疑いが晴れたのは、その気賀に城を建てるという内情があったからでした。
井伊家を許す事は今川家の懐の広さアピールでもあり、なおかつ気賀の築城の材料が手に入ったという一石二鳥の考えが裏にあるようです。
落日を迎えつつあるとはいえ今川家のしたたかさがここで見えます。

 

<本当の「自由」を手にしたいなら>
さて、その気賀に武家が入ることになって商人たちは最初は反対が多かったものの、しだいに賛成派・反対派・中道派とわかれていったようです。
まずは反対派の龍雲丸について触れたいと思います。
彼はその反対派のなかでも強硬的で過激グループに属している感じがしますね。
過激というか火をつけるという物理攻撃にでてる点では、やっていることはテロリズムに近い所があります。
利害ではなく自身の思想性または感情によって「築城」に反対しているところでもそのイメージに拍車をかけてます。
彼は幼き日々の経験により「城」という存在自体が「死」や「大事なものを奪われた。」という象徴なっています。
彼の武家に対するアレルギーはそこからきているようです。
そんな武家に縛られたくないという思いをもとに、「自由」な生きかたをしている彼が、一番「武家」のルールに縛られてるように見えました。
武家」にならないという選択をしても「武家」がつくる世界に住んでいる彼は武家の作るルールから逃げ出す事は出来ません。
もし本当にそこで自由でいたいと思うなら、ある種の力(知恵や工夫)が必要です。
彼のやり方ではますますその武家につけいる隙を与えてしまいます。
この場合、やはり気賀に自治能力はない。武家が治めなきゃいけないという大義名分を自ら与えてしまうことになってしまいます。
組織の決定に不満があるならば、それと同等の力をもつか(この場合武力)、その内部にいてそこから影響を与えていくしかありません。
だけど経験による感情や出した答えを、人は簡単には翻せない。本当は彼も理屈ではそこに気づいているとは思います。
だからこそ、直虎の意見にいちよは耳をかたむけ討論に応じています。
迷いの中にいる彼は、はたしてどのような結論に辿りつくのでしょうか。

 


<調停者・直虎>
猪姫にみえる直虎ですが、彼女は意外にも調整型のリーダーな面もあります。
気賀での会議ではそんな一面が存分に発揮されていたと思います。
さて今回はあるルールがあります。それは
武家が気賀を治める」
というものです。これは武田への「塩留」というマクロの事情からきており、覆すのはほぼ不可能。
そのルールに対して、反対派と賛成派をうまく融和させる方向にもっていくのが彼女の仕事です。
まず、彼ら両方を交渉のテーブルにつかせるために「材木の都合」を引き合いに出しておびき寄せました。
賛成派はともかく反対派もちろん怒りますよね。
なので彼らがなぜ不満に思うのか、聞き出しています。
反対派としては、税を納めているのに自治権をとりあげられたら意味がないという面もあります。

が、商売人である彼らにとって重要なのは、自由に荷や人が移動できなくなることによる商売の停滞への危機。

 

 

そこで直虎は「築城」自体を交渉のカードとして、大沢に商売の保証を取り付けろ、と提案します。
大沢も気賀が潤う事に反対する理由もないので、十分に彼らの妥協点を探れる可能性が探れます。
直虎は賛成派の顔を立てる事も忘れません。彼らにもそういう考えがあったのではないか?といっています。

 

私はそういう面もなかったとはいいませんが、彼らは商売上の戦略として大沢につこうとしていたというのが大きいと思います。例え、反対派を見捨てる行為だとしても。
だけどここで重要なのは、そういう話にしてた方が、この場が丸く収まるという点です。
賛成派も反対派も同じ理由からいがみ合い誤解していたという事にしておけば、その後のやりとりがスムーズに進みます。
両者ともに振り上げたこぶしを下す理由が必要でした。
直虎はそんな彼らの落としどころを提供していたと思います。

 

 

<ルールさえ利用する男・方久>
いやぁ、ほんと今回の方久さんには惚れました。「武家(大沢)が治める。」というルールに対して「井伊が治める。」という置換ができるとう発想は商売人の彼ならではです。
もちろん井伊が、水上交通による儲けが見込める気賀を治めるという事になれば、彼の商売も可能性がどんと広がるという目論見もあります。
しかもただの夢物語ではなく、ちゃんと現実の延長上にそれを見据えているとこがまたよくて。勝算があるからいっているでしょうし。
気賀にも井伊にも自分にも悪い話ではないでしょ?と全方位win-winを目指そうとするとことか惚れ惚れします。

 

 

<同じ井伊谷ファーストだとしても>
トランプさんがアメリカ・ファーストといってましたが、これはどこの国も自分のとこが一番大事です。
ただ、そのやり方や定義にずれがあるわけで。
直虎も政次も、井伊谷ファーストですが現実への認識の違いがあるように感じました。
政次は国益のためには基盤が今川との縦ラインの安定にあるという風に考えており、直虎はそれだけじゃなく横のつながり(経済)に広げていく事を強化したいと考えてるのかなと。
いや、直虎は経済まで踏み込んで考えてはないとは思うんですけど。
気賀の問題に井伊が介入するという事は危険性だけではなく、影響力が増すという、うま味もあるよなぁと思ったので。
政次が最初から否定の形からはいってきたので、ちょっとびっくりしました。
ちょっと以前にもまして彼の考えている事が掴めにくいとこが出てきているので、なんともいえません。
まぁ、方久の提案した案を踏まえて気賀に介入するという事を、どう彼が判断するかは来週のお話なんですが。
「今川」というルールの中でどう勝負していくかが今後の見どころになりそうです。