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物語は誰がために~ウォルト・ディズニーの約束~

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ディズニー作品の中でも名作と名高い「メリー・ポピンズ」。
その映画化のために、イギリス在住の作者。パメラ・トラヴァースはアメリカのディズニースタジオへ。
だが気難しく頑固な彼女は、製作スタッフのミュージカル化や俳優、舞台のセット案、アニメーションをほぼ否定していく。
おかげでなかなか作業が進行しない。
そこでウォルト・ディズニ-はなんとか彼女の心を開かせようとするのだが・・。

 

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 メリー・ポピンズは幼いころに見たことがあります。

映画を見たことはなくとも「チムチムニー♪」と始まる曲を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?
その作者のトラバースさんは、頑固で性格がきつい性格に最初の方は描かれています。
といっても彼女の気持ちはわかるんですよね。要は原作を尊重した実写化をしてくれ、と彼女は主張しているわけです。
しかしメディアの違いがそこにあって、製作サイドからみれば彼女のかたくなさは厄介です。
話が進むにつれ、なぜそこまでして彼女が「メリー・ポピンズ」にこだわりがあるのかが、彼女の少女時代を交互に織り交ぜながら解き明かされていきます。

 

<クリエーターの夢とお金のはざ間で>

パメラは最初から、ウォルトを含む現場スタッフを警戒しています。
むしろ「お金目当てなんでしょ?」とつっかかっていきます。
なぜこんな事を思うかといえば、それは少女時代に起因しています。
彼女の父親は失業したのち、銀行家になりました。家族を養うために。
どこか浮世離れしている彼はお金を扱う仕事にむいていない。そしてアルコールに走ってしまいます。
倒れてもなお、そのアルコールを離さずにはいられない彼に、妻は絶望して自殺未遂まで起こしてしまいます。
ここまで、悪い面を書きましたが、けしてそれは彼のすべてではありません。
夢見がちな分、子供と同じ目線に立つ事ができ、子供の空想をけして馬鹿にしない良い父親の面も、もっています。

 

 

だからこそパメラは許せないのです。
お金のために、生活のために、銀行家になった父。そのお金を扱う仕事で彼自身と家族が壊れてしまった。
なのに、その自分がお金を稼ぐために自分の愛する作品を汚してしまうかもしれない。
お金にさんざん振り回されたというのに、そのお金がないとやっていけない。
これはパメラの個人的葛藤でもありますが、作品作りに携わる人達なら直面する問題ではないでしょうか?門外漢なのであくまで想像ですが。
自分の思うような作品を作る事とスポンサーの意向のぶつかりあいなどの。
集団製作物である映像作品ならなおさらおこる事と思います。

 

 

<物語が救うもの>

さて、彼女の少女時代はそんな暗い影を落としていますが「メリー・ポピンズ」はハッピーエンドで終わる作品です。
魔法が使えるメリーは壊れかけた家族の救世主になり得ましたが、パメラのもとにきた伯母さんは奇跡を起こせず、冷たい現実を変える事が出来なかった。
そこにパメラの「願い」が込められていてます。そしてそれがウォルトが彼女の心を開かせる鍵になります。

 

 

頑固だったパメラも少しずつですが、製作陣と歩み寄りを始めます。
けどある日、実写の中にアニメーションを取り込む案があると知り、激怒してイギリスに帰ってしまいます。
ウォルトはアメリカからイギリスの彼女の家までいって説得にかかるんですが、それがもう完全に口説いているんですよね。
色気があるとかじゃなくて、これはビジネスなんですけど、人の心を動かそうとするときに、誠意をもって相手と対峙していこうとする姿勢がまさにそれで。

 

彼は彼女の心を開かせるために、自分の内面をさらけ出しました。
幼いころ雪がふる寒い中、新聞配達をさせていた自分の父親について。

その父親の事を愛しているが、それだけではない複雑な気持ちが混在している事。
自分の半身ともいえる自ら生み出したキャラクターを売り渡さないといけない状況に追い込まれた経験がある事。
この二つからわかる通りパメラと似たような境遇をウォルトは送っているわけです。キャラクターはただの絵でも文字でもなく彼らの家族です。
同情でも分析でもなく、同じ立場のクリエーターだからこそ通じる何かがそこにあるわけです。

彼ら二人は、幼い日の彼らは現実を変えられたわけではありません。でもだからこそ物語の中でこそ現実に疲れ切った「父親」達を救う事ができます。
そして、父親を救えなかった子供時代の自分達に赦しを与えようとします。
「メリーポピンズ」に出てくる父親のMr.バンクスを幸せに描くことで。
なぜなら、「メリー・ポピンズ」を見た同じような人々がこの作品に心が動かされ、少しでもつらい現実を忘れて明日への活力となるかもしれない。
その作品を見ることで視聴者が救われていくという事は同時に、彼らクリエーターの心を救う事を意味します。

 

 

メリー・ポピンズ」の作品は見返すと確かにMr.バンクスの救いが描かれている話で、幼いころの私は一切それに気づきませんでした。
どちらかというと魔法がつかえる女性が家にやってくるという事にわくわく感をもっていかれて。つまり
この作品は二度、「救い」を人々に与えている
最初に、子供に見た時。そして大人になった際にに再び見た時。
よく、「大人でもみれる子供向け作品」という事がいわれますが、大人になってそれをまた見た時でも感動を与えてくれる作品の事をいうのではないでしょうか。

 

 

<デレたあとの破壊力>

それにしても、ウォルトの説得に応じたあとのパメラが可愛すぎて。
試写会で涙ぐむ彼女が「アニメーションがひどすぎて」といっても、もはやツンデレのセリフにしか聞こえないんですよ。
人の表層だけでなく内面を知るという事はこんなにもイメージを変える。
ウォルト自身も同じで、パメラの性格だとマスコミ受けしないから、試写会には呼ばないでおこうとします。
ともすればビジネス的な冷たい合理的判断のように思えますが、彼が「作品」を守ろうとする姿勢からやろうとしてることがわかります。
それをパメラもわかるから、くってかかるような事はしない。けしてウォルトが作品を汚さない。作品の本質を共有していると。
まぁ、それをわかってもメリーポピンズのように現れるんですけどね。
だけどそのさまも可愛くてしょうがなかったです。

いやぁ、ほんとにいい作品でした。