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水面下で動く男達の秘めた感情~おんな城主直虎23話~

おんな城主 直虎 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

飲みにケーションwith龍雲党で井伊の住民達との親睦を深めた翌日、近藤さんが何者かによって本尊盗まれたと直虎のもとにやってきました。
彼の言い分によると、犯人は龍雲丸達ではないかという事でした。引き渡しを要求された直虎ですがなんとか逃がそうと画策します。
彼女のその意思に添おうとする二人の策士家(南渓と政次)が表と裏で活躍しました。
今回の話はいつも以上に「行間読み」が必要だったというか、人によって捉え方が千差万別だろうなと感じました。

 

龍雲丸がなぜ、家臣となるのを断ったのか?
なつはどういう心構えで政次の味方をしているのか?
政次の真意がわかった直虎が政次のシーンでの二人の感情はどういうものか?
彼らが実際にどう思ったのかを視聴者の想像力にゆだねた作りでした。
まさに、直虎がいった「揺らいだ旗が見る者の心によってか変わる」例えのように。

 

〈奔放な龍雲丸の冷静な判断?〉
これらを全部、推測しだすときりないのでひとまず龍雲丸の事を少し述べます。
前回の感想でも、彼らは組織に属しなくても生きていける強さがあると書きました。
今回の直虎の提案は、日の目をみない彼らに社会的居場所を作るチャンスでした。

 

なのになぜそれを断ったのか?

 

龍雲丸が言うように武家は泥棒と言った手前いまさらということもあるとは思います。
けして意地をはっているというわけではなく、例え始まりは悲劇だったとしても、自分達が生きてきた人生を肯定しているし、これからもそれを貫き通したいという意思の表れなのかもしれません。

 

そして、もう一つの理由として、アウトローな自分達を人間扱いしてくれた直虎に本当に恩を返そうとするには、龍雲党は井伊のつけ入る隙になりやすい事があるかと。
実際に、近藤殿がそこをねらってきました。
ならば組織の内部にいるよりも外部にいて、なにかあった時に彼女の助けになればいいと思っている可能性があります。
確かに組織の一員になるというのは、安定したものが得られますが、彼らのような職能集団だと縛りが出てきてフットワークが重くなる可能性があります。
それは、彼らにとっても幸福とはいえない。(才能を開花させるのは一つの幸せ)
井伊に残る事と外で生きる事、この二択の損得を直虎(井伊)と組織のためになるのがどちらかを考えた時、現時点でのリーダーとして答えが今回のものなのかもしれません。
しかしまぁこう考えると、自由奔放にみえていいたいことを何でもいっちゃえそうな彼が、政次のように本音を言わずして動いているといえて面白いんですよね。

 

 

〈時が起こす奇跡 As Time Goes By
さて、政次の真意に気づき話し合いの場をもった直虎さん。
ここのシーンで直虎が「政次が誰よりも井伊の事を考えてくれておるのは明らかじゃ」
といいました。同じような事を18回「あるいは裏切りという名の鶴」でも同じような事をいっていますが
今回は、直虎と政次が手探りながらも協力しあいながらきた積み重ねもありつつ、直虎が彼の意見を頼りにするというところにすごい心に打たれるものがありました。

前からいっていますが、小野政次のテーマとして私が感じ取っているものに

「村社会という共同体のスケープゴート(生贄)に選ばれてしまった者」

というものがあります。しかも政次本人のせいでなくただ小野家に生まれたというだけで井伊では「嫌われ者で裏切り」のレッテルがついてしまっている状態でした。
「小野家」の男子であるということは政次個人の資質なんて関係なく、そのマイナス物語をスタート時点から背負わなくてはなりませんでした。
そんな「小野家」の男子である彼が、「井伊家」の惣領娘たる直虎に、全幅の信頼をおかれている。
これ、めっちゃ感動するんです。なんでかというと前の世代である直盛-政直の時にはこじれてた関係が直虎-政次の二代目では解決の方向にむかっているからなんですよね。
バッドエンドで終わっていた物語が、時間の経過と世代が変わることによって違う形を迎えようとしている。
そのベースにはもちろん直虎・政次・直親達の幼いころからの絆があります。
だけど、それは一世代目の直盛が種をまいた結果なのでは?と私は考えていて、だから直盛は「おとわ・鶴・亀」の三人を仲良くさせていたのではないか?と推測しています。
大人になれば確かに利害の対立があり立場が違う。しかしその認識が薄いうちから共に育つと、手を伸ばせば助け合うことができる関係性が築けるかもしれない。それはとても難しい事だけど。
直盛は優しすぎてだめなところもありました。けどその長期的戦略なんてとてもいえない彼の次世代への希望は、彼が死んだあとに確かに芽吹いています。


〈理性と情念のはざまで〉
そして肝心の政次の心情についての推測ですが、これがまた難しい。
彼はもともとロジカルな人です。だから直虎が「井伊」を第一に考えているとは頭ではわかってはいるとは思うんです。
だけど今回は不安があったのではないでしょうか。
龍雲丸に好意をよせている事がわかるぶん、直虎が「井伊」を最優先しないかもしれない、という恐れがあったから。
だからこそ、彼女に釘をさすような事をいった。
自分自身も、龍雲丸達を助けた理由は直虎が騒ぐと面倒だからとやったまでの事。決して個人的感情で動いてはいない。そんな「下らない」感情では動かない。
だから直虎もそれをベースに動いてくれるな。
あくまで、「井伊家」のためという目標の中に俺たちは立っているんだろ?というような心の機微があったのではないかと。
理屈ではわかっていてもそこに、情や恋慕みたいなものがあって不安が増大するんですよね。

 

 

これですね、面白いのは政次は直虎に不信感をもっているのに、その肝心の直虎からは、かけなしに信頼されているところなんですよ。
「信じるふり」なんて芸当ができない彼女の言葉は疑いようもないんです。
検地回では、そんな「信じるふり」をされるなんて気分が悪いと、直親にいってた彼が今回は逆にそんな立場にたっている。
そんな彼女からの「信頼の眼差し」を向けられ続けられる彼の内面世界がどう変わり行動していくか興味深い。
その信頼に答えられるだけの自分でいられるか?というのを問われ続けるという面がそれにはあるので。
逆に、直虎自身は彼ほど一歩引いて物事を見れない分、大切なものを守ろうとしたりするとき、どう水面下で動けばいいのか?という事を知ることができます。
こうみるとやっぱり二人は補完関係にあるんですよね。
龍雲党が手のひらからすり抜けていった直虎ですが、少しずつですが前に進んでいると私は思います。