シェヘラザードの本棚

物語同士のつながりが好き

「内(うち)」と「外(そと)」の断絶を越えて~おんな城主直虎22話~

おんな城主 直虎 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

前回、直虎は龍雲丸の一党を木材伐採のためにヘッドハンティングしてきました。今回はそんな外部の彼らが、井伊谷の定住民といざこざを巻き起こします。
今までもミクロの部分にフォーカスを置いている大河だと述べてきましたが、この話でマクロの波に飲み込まれる弱小国家・井伊を強く感じてしまい個人的には非常に
つらさを感じるものとなりました。


<技能持ちの流浪の民と定住民にある溝>
前に人材集めの時には、同じ農民同士もあってか、とりわけ問題は起きてないようでした。ですが今回は違います。
賭博場を開いたり、酒の盗難や村娘へのストーカー被害疑惑が浮上しました。
これ、いってしまえば全部誤解からくるものだったのですが、現代でもおこる根深い「差別」の構造からきています。
なぜ差別が起こるのかといえば、自分と「異なるもの」への恐れが根本的にあって、ここでは、定住者(一般人)と非定住者(無法者)という形としてあらわれました。
龍雲党の人たちからすると、頼まれてきたのにマイナスの扱いをされ、「人間扱いされてない」と感じます。
彼らはきっと、今までもそのような扱いを社会から受けており、生き延びる結果、はぶれもの同士で集まって生きてきたのではないでしょうか?
具体的にどんな状況にいたのかは語られていませんが、想像するだけで胸が痛みます。
だからといって、盗みを繰り返していてはそこから脱却することはできません。差別されてるという理由をもとに悪事を働いては、悲しいですが社会的に認められる事はないでしょう。

 

 

が、ここまで彼らを被害者という立場によせて書いてますが、そんなに同情的に見ているわけではありません。
というのも、はぶられたと結果だとしても手に職がある彼らは、どこだって生きていける、という見方ができるからです。
社会的組織の外で生きていけるだけの強さがあるので、土地や家に縛られてしまう人達からするとある種の自由があります。
だけど、普通の人々はそんな強さがないので、だからこそ人は集団になり一人ではできないことを成し遂げたり、大きな敵に立ち向かえます。
ただ、それは構造上どうしても自分達の「内」と「外」を分けることになり、「外」認定を受けると排他されてしまう人が出てしまい、それが龍雲党のような人を生みます。

 

あんまり関係ないのですが、「コードギアス」という作品の中で。レジスタンスの女の子であるカレンが「組織、システムに入れない人はどうなるの?」
みたいなことをいった時に、相手のスザクという男の子が「組織に入るしかない人はどうなる!」という返しがあってなんとなくその事を思い出しました。

 

 


<群雄になれない今の井伊家>
ここまで、井伊ってめちゃくちゃ弱小だよね。と思ってみてましたが、あらためてまじでそうなんだなと実感してきました。
宗主国レベルで情報戦を制すということが難しいとは思いますが、各国に間者を送り込むだけの国力が単純に足らない。そのレベルに達してない。
外交は政次の今川家ラインと、常慶が松平とのそれがどうなるかまだわからない状況。
ただでさえ資金も軍事力も人材もない中で内政がいっぱいいっぱい。
この戦国バトル・ロワイヤルにエントリーするだけのリソースが圧倒的に足らなくて、ほんと涙が出てきます。
足らないからというより、現時点では資格すらない与えられてないという点で。
どれだけ直虎が井伊の「内側」を充実させようとしても、「外」にある世界の残酷さが井伊の喉元にナイフを突きつけてくる。
蒼穹の昴」で列強にいいようにされた清王朝末期のように、大国に翻弄される直虎達の「今」は薄氷の上の幸せのよう。
この手元にあるカードの少なさと、でもそこにいる人、一人ひとりは良い人達なんだよね。という感じはなんというか凄く「日本」だなと感じます。

 

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

蒼穹の昴(1) (講談社文庫)

 

 


<やはり鳴かない鶴>
twitterでギャーギャーいってるし、他の方々の政次分析や感想を読んで正直満足していますが、「下らぬぞ。但馬。」インパクトが大きすぎて。
今回は直虎さん周辺も含めアガペーとリビドーにあふれてて、こんなにもなまなましく肉体性にふりきる大河も珍しいなぁと感じます。
この理性的で自分のことちゃんと把握しますって人が、自分が思う以上に自分の感情に振り回されているのを、いっぱいいっぱいになりながら制しようとするとこ、
控え目にいって最高すぎる。内面に大きな波がある人が理性的にふるまおうとするのがいいんですよね。
でも、逆に表層的には明るく、中身がないようにふるまう人が、意外に理性的な中身だとそれはそれで好き。と考えた時あれ?それって龍雲丸さんでは?
と思ってしまいます。彼らは正反対に見えますが井伊の「外」にいる政次と社会的に「外」にいる龍雲丸は似たとこもあります。
「土地」と「家」の縛りがあるかないかであって。そして「外」にいる彼らにそれでも手を差し伸べようとする直虎さんは、確かに眩しい存在だなぁ。
そこに計算がないとこが厄介でありつつ魅力的で、こういう人を好きになると大変ですね。
彼女の「ファム・ファタール」ぶりがこれからも炸裂していくかと思うと、涙を禁じ得ないのですがこれからも見守っていこうと思います。