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エンタメが文学を繋ぐ。太宰治の『黄金風景』 ~花もて語れ5巻~

花もて語れ 5 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

いまや漫画やアニメーションがいまや世界的広がりを見せています。それの面白さ一つは、題材のバラエティ豊かさなんですよね。
恋愛やヒーローや歴史ものなどのメジャーなものから、人があまり知らない職業ものなどありとあらゆるジャンルを網羅しています。
ここで紹介する「花もて語れ」も「朗読」という珍しいものを題材です。

 

 

主人公であるはなちゃんは引っ込み思案だけど空想好きな少女。彼女は幼い時に朗読の楽しさに目覚めますが、かといってそこから何があるわけでもなく大人になり、
社会人になってから朗読教室に通い始め再び朗読のとりこになっていきます。
文学作品が多く取り上げられて、どの物語も読んでから大好きになったのですが、全巻を読んだ中で一番だと思えたのは5巻に出てくる太宰治の「黄金風景」なんです。

 

黄金風景

黄金風景

 

 

 

青空文庫でも無料で読めるので、まだ読んでないひとがいたらぜひとも読んで見てください。短編なんであっというまに読めてしまいます。

 

 

この「黄金風景」には太宰がに仕掛けた「罠」があり、私はそれにまったく気づきませんでした。女中をいじめる高慢な少年・太宰に対して最後になぜ彼女は「親切」といったのか疑問でしたが、はなちゃんの朗読で腑に落ちました。
というか、意味がわかると何回読み返しても胸にきます。はなちゃん朗読の中で太宰治がどういう人間だったのかという事にもスポットライトをあてておりこう書かれています。

たくさんの苦悩を抱えたのは、その苦悩を感じとれる、感性をもった人間だったからではないか。

 

そして黄金風景とはどういう小説かといえば

思い悩むということは、そのなやみを乗り越え始めている。
思い悩むということは、その悩みを乗り越えられる器がその人にある。

 

となっています。ここだけ抜粋すると意味不明だと思いますが「花もて語れ」を読んだら一発でわかります。
ネタバレすると面白さが半減するので書けませんがこれ、太宰自身も自分の「思い込み」から解放されると同時に、彼の視線を借りて読んでいる読者もそこから解放される構造になっていてるんですけど、ちょっとねくれているせいかわかりずらい。
太宰治の作品を何作かをそれから読んだのですが私の彼のイメージは
些細な事で人を傷つけていたかもと怯える強い感受性と、自己完結してしまいがちな頭の良さを持つけど、そんな自分に自己肯定感はそんなに強くない。
というものがあります。
だけどそんな彼だからこそ「世界の美しさ」に気づくことができた。そういう面が強くでた作品がこの「黄金風景」だと思います。

 

 

私の言葉じゃじゃ「花もて語れ」と「黄金風景」の良さをうまく伝えることができませんがほんとうにおすすめの作品です。

それにしても、この作品を読んでて思うのは「小説」は自分自身の物語の「脳内再現力」が試されてるなぁという事です。
映像作品とは違い一からイメージを自分の頭の中で作り出さなきゃならないうえに、視点が登場人物の心の中に入ったり、逆にメタ視線から俯瞰したりと結構複雑な作業をやってるんですよね。
でもこのめんどくささがピタリとはまると、独特の多幸感あってものすごく気持ちいい。物語の海に深く潜っていくあの快感はなんとも言い難い。
けど、いつでもそうなるわけではなく、そうなるように手助けしてくれるこの「花もて語れ」は私にとって知らなかった文学との出会いの入り口となりました。
エンタメ(漫画)が文学の橋渡しをしてくれたこの作品に改めて感謝を。