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王冠を戴くアメリカンアイドル。その名はPresident of the United States of America~さらば白人国家アメリカ~

さらば白人国家アメリカ

「二大政党の将来がどうなるかはわからない。ただ言えるのは、アメリカが白い肌に青い目で英語を話す人々の国だった時代は、確実に終わるということだ」――トランプ対ヒラリー、史上最悪の大統領選が暴いた大国の黄昏。在米の人気コラムニスト町山智浩氏が、党大会、演説集会をはじめ各地の「現場」で体感したサイレント・マジョリティの叫び! 

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アメリカで行われた選挙について、トランプさんを軸にしながらもどんな候補が他にいたのかをわかりやすく説明してくれています。
政治というマクロの話は、基本的には得意ではないのですが、ものすごく読みやすかったです。
まぁ、読もうと思ったのは、アメリカのドラマや映画が大好きなので、登場するキャラクター達が生きている世界とはどんな世界なのか?
どういう思いを抱えて世界を眺めているか?ということを考えると、やはり知っていた方がより理解が深まるのだろうなという軽い気持ちです。

なので今更ながら、アメリカの選挙戦を振り返ってみました。

 

 

さて、トランプさんに大統領が決まったとき、ものすごくショックだったんですよね。トランプさんが選ばれた事がというよりヒラリーさんが選ばれなかったことが。
彼女はすごく優等生的で、私は多様性がある社会であって欲しいと考える人なせいか彼女のスピーチにはやはり胸が打たれるものがありました。
だけど、「目が離せない。」という点ではどう考えてもトランプさんに有利。
いまや大統領のトランプさんですが、この人誰かを思い出すなぁとぼんやり思ってたら雰囲気がなんとなく「ハマコー」こと、浜田幸一さんなんですよね。
思想とか考え方じゃなく、こう居酒屋で飲んでガハガハ笑ってるおじさん的な。(あくまでイメージです。)

 

〈トランプさんの支持者〉
だからそこらへんのおじさんで、きわどい差別的発言や無茶なマニフェスト(メキシコとの国境に壁をつくる)をいう彼は、まぁいい線まではいくけど最終的には選ばれはしないだろうと私はたかをくくっていました。というのも、アメリカのオーディション番組を見ていると、こういうヒールな役って最終的には落ちていく印象があったので。
そんな彼の支持者は誰か?という話がでると白人の労働階級であるとよくいわれており、町山さんも以下のように述べています。


出馬表明のすぐ後、2015年8月にユーガヴ社が行なった調査によれば、まず、トランプ支持者の9割は白人。半分は45歳から65歳で、65歳以上も34%。つまり8割以上が中高年だという。大卒率はわずが19%。
また、3割以上が一人当たりの年収5万ドル以下。年収10万ドル以上の高所得者は1割だった。
だが、トランプ支持者は貧しいわけではない。2016年5月の調査では、トランプ支持者の世帯年収の平均は7万2000ドルだった。
全米平均では5万6000ドルだから中の上だ。ちなみに民主党の2人の候補ヒラリー・クリントンバーニー・サンダースの支持者の世帯年収の平均は6万1000ドル。
民主党支持者には、都市部のリベラルなインテリも多いが、独身の若者や学生、黒人、メキシコ系の貧しい人々も多いからだ。
まとめると、トランプ支持者の平均像は、夫婦で年収7万ドル台の中流、中高年の高卒の白人ということになる。


じゃあ、どうして彼らに支持されるの?と考えた時どうも現政治への絶望と不満があるようなんですよね。
読んでいてびっくりしたのがアメリカはPAC(政治活動委員会)という政治資金団体があり、そこを通せば上限なく支持する政治家への献金が可能です。
つまり金さえあればいくらでも選挙で戦えます。
だけど、裏をかえせばスポンサーの意見を聞かないといけない政治家は、彼らに有利の政策をしなければならないということです。
そんな中、トランプさんは自前で選挙活動をし、他候補者を非難します。

まるで金持ちに立ち向かっているヒーローのようにみえるんですよね。
彼自体が、トップクラスの富裕層だというのに。
けど少ない選挙資金で戦っていけるのか?というものがありますが問題はない。
だっていくらだってメディアが取り上げてくれるので広告費がまるでかからないから。

金持ちと書きましたが、要するに大企業や富豪や財団は、ビジネスのために人件費のかかる国内よりも安い国外へと工場を移すものです。
そうなると給料はもちろん下がり、職を失う。
そういう状況で

「中国やメキシコはあなたがたアメリカの労働者から仕事を奪った!」
トランプは叫ぶ。
「だが、あいつらを野放しにしたアメリカの連中のほうを憎む!」

といった言葉はかなり強いと思います。是非はおいといて大企業がグローバル化を推し進めた結果、国内の労働者は行き場を失いますから。得をするのは経営陣だけ。
彼はこの二元論の対立を煽るような事をいって人の心理をつくのがほんとうまかったなぁと。

他にも選挙の争点として、人工中絶の是非・銃規制・移民問題マリファナ合法化・テロ対策・医療制度・同性婚などいろいろあります。
ですが白人ブルーカラーが支持基盤の共和党は、それらの彼らのニーズにどうも答えることができなかったようなんですよね。
その隙をトランプさんはうまくついたと思います。自分ならそれに答える事ができる!君たちの味方なんだ!と。

 

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 <支持者は白人労働階級だけなのか?>

ここまで、書いてて気付きましたが、別にこれって白人労働階級じゃなくとも、心を動かされる人がいてもおかしくないのでは?と思います。
なんというか未来に絶望し、大きな正義に疲れちゃって「世界の警察・アメリカ」を降りたがってる。
だって正義のためにといいながら中東の問題は解決せず、それどころか憎悪の対象として見られテロの被害は大きい。
他国や安全保障のことなんかより、自分達の小さな共同体を潤す事にもっと目を向けてほしい。一部の富裕層だけではなくもっと庶民の暮らしを考えてよ!

と、思う人がいてもおかしくないかなと。
たとえトランプさんが差別的発言をしようと、「私は差別主義者ではないのだけど、彼の言い分は一理あると思う。差別主義者では、ほんとないけど。」と思う中道派の人が多くいたんじゃないかと。
別に私はアメリカで暮らしたわけででもないので、あくまで想像ですが。
ただ、隠れトランプ支持者の人たちはいたと聞くので、こういう面があるかなと。

こういう不満や不安がでてくるというのは、やっぱりアメリカ全体にその空気が立ち込めているからかなぁと推測します。

 

 

だからといってトランプさんの差別的発言や行動にさらに傷つく人たちがいる事が確かです。
トランプ支持者が見捨てられた国民だという思いがあって、じゃあ、自分達以外の「国民」(イスラム教徒や貧困黒人層・移民)についての痛みを無視していいのか?
というものがあります。そんな彼らへの批判として「実力・能力主義重視がアメリカだ。人種や性別・宗教でがたがたいうな!今が不満なら自分が努力しろ!」
という意見があるとは思いますが、そのある種の正論は彼らに届かない。(←ある種といったのは、努力してもだめだった。能力がなければほんとにいけないのか?問題があるので)
ただ、自分達以外の存在を悪であるとみなすのは、冷静さを失い相手の本質をつかみ損ね、余計な分裂をまねくように思います。

 

 

<トランプさんを選んだ世界の行く末>

今後、グローバリズムの反動でナショナリズムの面が大きく出てきたこの世界がどうなるかまだわかりません。
トランプさんは、優秀なマーケターで人々の不安を見抜きました。だから、その不安を解消してくれそうな魅力的な器に見えたことでしょう。
その器が本当に使い物になるかはわからない。だけど、いろんなものが同時に求められるアイドルのような存在である彼がどうそれを御していくのか非常に気になるところです。

 

 

まぁ、言うこと、なす事が矛盾していても「トランプだから仕方ない。」というキャラクター性が彼にはあるのでその辺が強味ですよね。
そもそも、女性蔑視な発言をする割には娘を重用したりするところがあるので。