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直虎VS政次 人の上に立つ資格があるのはどちらか?~おんな城主直虎14回~

おんな城主 直虎 前編 (NHK大河ドラマ・ストーリー)

Twitterのほうでは、「政次がね、政次は~、政次ったら」とほぼほぼ政次botになっている私ですが、この話をみる限り、彼はどうも官僚タイプの人間で上に立つ政治家タイプではないんですよね。ほんと「シン・ゴジラ」みたく霞が関あたりで勤め上げた方がよっぽど才能を開花させそうですよ。(中の人的に)

策を弄することや根回しはできるんですが、ひたすらそれに特化した能力なんですよね。

 

シン・ゴジラ

シン・ゴジラ

 

 で、一方の直虎のほうを見てみましょう。彼女の城主としての器は実は第6回で示されています。

あの「かびた饅頭」事件です。それまで直虎という女の子は亀のために、髪を自分でそってしまい出家をしてしまうほどの苛烈さと一途さをもっていました。
「家」や他人の意見なんて関係なく確固たる自分自身の意思でもってです。ここまでだとひたすらにミクロの世界のみで生きている恋する女の子なんですが
彼女は直親と結ばれる機会を井伊というマクロのために拒絶します。
ここでわたしは、直虎という人はすごいかもしれない。と思ったんですよね。

 

えっとですね、これがもし彼女が最初から「家」のために生きいているような人なら、この選択にそんなに感心はしなかったんですよ。

「そんな小さな初恋なんて家の大事に比べたら些細な事だからしゃーないじゃん。」と最初から思うような子なら。
だけど、これまで直虎はどんなちいさな事も誰かのためにと「竜宮小僧」として働きつづけ、家族や周りの人間を深く愛せる事ができる子でした。
そんな愛情深い彼女が亀との「二人だけの世界」とう甘美な世界に逃げこまない。

ロミオとジュリエット」になるという選択はないんです。

どれだけ、彼の手を取りたかったかがひしひしと伝わってくるにもかかわらず。

 

だけどここで俯瞰して十年・二十年先を見据えた策をちゃんとわかってるんですよ。
そんなマクロの現実をちゃんとわかっていながらも、ミクロの人の痛みに敏感であるという彼女のバランス感覚はなかなかありえることではなんです。

 

ロミオとジュリエット (新潮文庫)

ロミオとジュリエット (新潮文庫)

 

 そしてここまでの前提をもって今回の話を見てみましょう。

 

政令」を発布しない直虎に腹をたてた農民達との夜の田植えのシーンです。彼女は二段構成のプレゼンで彼らを説得にかかります。

 

 

まず最初に徳政令を出した場合と方久の策に乗った場合の二つのケースが引き起こされる長期的な結果を彼らに示しました。
確実に方久側にアドバンテージがあると匂わせながら。
その後、たたみかけるように方久の金に忠実な人間性について語り、そういう男ならこの件に関しては裏切らないというロジックを展開します。
上記までが一段目です。

 

そしてここからが二段目。
自ら田植えをして泥だらけになるという農民の立場もちゃんとわかってますというパフォーマンスを行いながら、
「私は、あなたたちと共に歩みたい。一緒にやってくれないだろうか?」
と低姿勢で上の立場であるにもお願いしました。

 

 

なんか私がこう書くと腹黒くみえてしまいますが、直虎はナチュラルにやってのけていて自覚はないでしょう。
このプレゼンのすごいところは、ちゃんと最初に農民にとっての客観的な現実をしめし、その次に彼らの心に寄り添っていった点です。
これはどちらもないとだめでした。一段目も二段目、両方セットだからこそ効果が出るものです。
彼らも無自覚で直虎の意図をちゃんと理解しかは怪しいですが、民衆というのは情や理想主義だけではなかなか動きません。

策だけで人を動かせても心まで動かすことができず、逆もまた然りです。
目の前にある現実をちゃんと見たうえで、それから夢をみせることがどれだけできることができるか?彼らの動機をどれだけ社会に対してうごかしていけるか?

 

これは、現在の世界の為政者達さえ四苦八苦するような難しい課題です。
直虎がなぜこれを自然体で出来るかというのは、幼いころから市井の人たちとふれあい、ミクロな彼らを愛することができる感性にあります。
そこに本来のマクロの現状把握能力が加わると「城主」という器が出来上がります。
そういうわけで、私は人の上に立つのは直虎のほうに分があるなぁと、思ってしまうんですよね。

 

直虎が政治家タイプなんで本来なら官僚タイプの政次とは相性がいいはずなんです。お互いが補完関係になるので。「井伊を守る」という課題を取り組む同志ならなおさら。

しかし今の捻じれた人間関係がドラマになっています。

 

 

 

けど直虎って本来、天真爛漫でまっすぐなもんだから普通のかわいい女性に見えてしまうんですよね。(そこがギャップとしていいんですが)
そういう立場になったからリーダーの資質が顕在化されたものの、普通はわかんなくてそこに政次の誤算があるように感じます。
「知っておる。昔から。」とか彼氏面したセリフをいってて個人的には最高だな!!と思ったんですが
彼女の器についてはわかってないように感じました。
いや、そもそも亀が「かびた饅頭」事件のあとに、「おとわはそなたのものにならぬぞ?」とか爆弾発言かましているひまがあったら、
なぜおとわが自分と結ばれるのを断ったかとか説明しとけば、少しは彼女の能力が伝わったのでは?とタラればしてしまいます。
まぁ、「美しい思い出」として自分だけの記憶にしたかったささやかな彼の抵抗のあらわれだとは思いますが。

 

 

あぁ、でも毎回かたいことをかいてるなぁ。もう、週刊「政次」にしてしまいたいけど、
高橋一生さんの演技から機微を読み取る「政次ソムリエ」や「政次一級鑑定士」の
Twitter住人のみなさんの分析をみて満足しちゃってる自分がいますね。ほんと、副音声で古舘伊知郎さんばりに
「おっと!!今、政次は目線を下げましたがどう意味でしょう?!!」
といったら
「そうですね。直虎の方を驚いて思わずみてしまいましたが、すぐに自分を律して下を向きました。」
みたいな実況ごっこやったら楽しいだろうなぁと妄想しています。