シェヘラザードの本棚

物語同士のコネクションを探して

救われないこの世界の最前線に立つ~HOMELAND~

HOMELAND/ホームランド vol.1 [DVD]

私が物語を読む時のテーマの一つに、「転向(convert)」する人はいったいどんな動機を持ちどこへ向かうのかというのがあります。
なぜこれに興味をもったのかというと「幽☆遊☆白書」の仙水忍というキャラクターから始まります。彼は正義感が強く霊界探偵として人間側の立場から妖怪と戦ってきました。
ですがその人間の悪の極みをみてしまい、価値観を180度変えて人間に憎悪をもってしまうというじつに悲しい人です。幼かった私は、ある日信じていた物が一転して、
今までの自分を全否定しまったくちがう方向に走り始めた彼に非常にインパクトを受けました。しかも正義(人間側)についていた人が悪(妖怪側)になるなんて!!
アンパンマンも警察の人ももう信じられない!!と布団のなかでぐるぐる悩んだものです。成長するにつれ、この世界の善悪の不確かさがわかってくると、「仙水忍」が私の物語を追う上での一つの原風景になりました。

 

 

そこからこの原風景をどうにかもっと鮮やかにみたいという欲求のもと、日本に愛情を持ちながらも戦争でアメリカの軍に従事しなければならなかった日系アメリカ人の天羽賢治「二つの祖国」や

宗主国の皇子でありながら、従属国の革命軍のリーダーになっていくルルーシュコードギアス」などの本来とは逆の立場でもがき続ける人達の話を読み込んできました。

 

二つの祖国(一)(新潮文庫) (新潮文庫 や 5-45)

二つの祖国(一)(新潮文庫) (新潮文庫 や 5-45)

 

 

 

 (シーズン3までのネタバレあり)

 

さて、ここで今回紹介する「HOMELAND」は、アルカイダとアメリカのCIAの攻防から始まる物語です。CIAの職員キャリー・マティソンは、イラクに赴任中にある海兵隊のアメリカ人捕虜が転向したという情報を得ます。この捕虜のニコラス・ブロディは八年間行方不明でしたが、アルカイダの基地から米軍から救いだされ帰国し、英雄ともてはやされるようになります。しかしキャリーは、彼にスパイの疑惑の目をむけ恩師のソール・ベレンソンと調査と監視を始めます。もうこの時点で興奮しまくりです。現在進行形の私たちの世界の話をしてくれるなんて!!しかもアメリカの正義の象徴みたいな海兵隊員が寝返ってるかもしれないなんて、私のためにつくられた物語じゃないか!!ありがとう!!アメリカ!!と思いましたね。見始めた時は。

 

けどね、ほんとおもったよりつらい話です。なにがつらいって終わりが見えないですよ。いままさにテロとの戦いは私たちの住んでいる世界の課題のひとつであって簡単に答えはだせない。歴史物だったら結果がすでに出てるし、ファンタジーならおとしどころを見つけることができます。

そしてつらさのもうひとつに主役のキャリーの不安定さにあります。彼女は非常に有能ですが双極性障害があり、まわりも自分も気分で振り回しまくります。というかたまにヒステリーをおこし手をつけられません。驚くことに、監視対象であるはずの妻子もちのブロディを愛してしまうというぐだぐだっぷり。しかも向精神薬がないほうが頭が冴えるという理由で飲みたがらないのでますます、ヒートアップ。けどおかげでどんどん事件の核心に近づくという、視聴者からみればなんともはがゆいこまった主役です。
見ている方もつかれてきて、絶対友達にはなりたくない。近づかないようにしよう。と、思うタイプ。主役でヒーローなのに。
だけどちょっとここでわたしが面白味をかんじるのは、彼女の病気はどうやら遺伝性のものらしく父親も同じ病を抱えています。これは彼女はおそらく一生かかえていかねばなならず解決することはないと示していると私は考えます。
彼女の内面は、この世界そのものとリンクしており、安易に彼女のトラウマ解消みたいなものが物語の終着点にならないという非常にきびしいものをこちらに突き付けてきます。
この個人心の動きがまったく結果やマクロにリンクしていないのは、「ゼロ・ダーク・サーティー」でビン・ラディンを追い詰めたCIA分析官のマヤもそうでした。彼女たち二人とも坂の上に雲なんてないんだ!!だけど、それでも登らねば!!
けど!!みたいなところがあります。虚しさをかかえながら進むつらさをこれでもかと見せてきます。この病んだ世界で。

 

 

だけどね、私このキャリーがめちゃくちゃ好きなんです。これでもかと悪い点を述べていますが、彼女は病気で感覚が麻痺しているゆえかもしれないけど覚悟ができた人間で、いつだって死線に飛び込んでいき
、自分の正義のためなら時としてアメリカという組織を敵にまわし、なのに組織人であり続ける矛盾をかかえ絶対にぶれない。こう書くとやはり「24」のスタッフが携わった作品だと感じます。主役のジャックに近いものがありますね。

ここまで説明してやっと「転向する」キャラクターにて、もう一人の主役たるブロディについて触れることができます。彼も複雑で大きな矛盾をかかえる人物です。海兵隊員であり、テロリストで、英雄で、洗脳されたとはいえ、イスラム教徒。
なぜこうなってしまったかといえば、捕虜になっている間に、アルカイダである少年とのふれあいがあり、その関係はまさに父と子でした。つらい捕虜である時の唯一の人間らしい時間です。その子供をまさかのアメリカの空爆で亡くしてします。
この愛している罪のない子供を、自分が信じた正義が殺してしまった。しかもアメリカはその事実を認めない。まぁ、認ませんよね。
そこにブロディは絶望と怒りを感じ、空爆作戦を命じた当時のCIA長官で現副大統領のウォルデンを自爆テロに巻き込むためにアルカイダに協力します。
ですが、ブロディは自分はテロリストではなく、海兵隊員として祖国の汚名を雪ぐためにやるといってすんすよ。祖国を愛する一人の人間として。このなんと矛盾にみちた言葉でしょうか。そのためなら命さえ惜しくないといいうほどの強い動機をもって。彼の純粋さの中の狂気は戦争によって作られたものです。彼はけっして日常生活にもどれなかった。
もしかしたら八年間はなれていた家族との生活にもどれたかもしれないというのに。
戦争を始めたというのに彼と普通のアメリカ人との間には、深い断絶があります。強い戦場感覚と日常感覚のバランスは戦争帰りにとって大変なことです。ただでさえ帰還兵のPTSDは、問題になっています。

 

 

 

 ただ、祖国に刃を向けるまでに彼を追いたてのは確実にアメリカの矛盾した正義にあります。なにかを守ろうとすると、誰かを傷つけていく。だけど正義そのものが、矛盾をはらんでいてこれをアメリカだけにに問うのは酷です。

清濁をかかえながらやっていかなければならないし、外交はルールの押し付け合いの積み重ねでどの国もやっていることでしょう。

多分、その正義のもつ矛盾にブロディは根底では気づいています。だからこそ、その矛盾に押しつぶされそうになり自分でも自分がわからなくなっていきます。でも、私はこのブロディを追い詰め、時として追い詰められ、愛し、愛されるキャリーが
彼に最後にかける言葉にどうしようもなく救われていきます。それは、彼女がいうから説得力と価値があり、彼と彼女が立場が違えど同じ目線にたてて、その特殊な立場故の孤独をわかちあえる存在だからです。
救われない世界の救われるセリフはほんとしびれます。
なんていったかは、ぜひ見て確かめてください。
もうサイコーの愛の言葉で、これをこの場で好きな人にいわれたらたまらないですよ。状況はおそろしく絶望にみちているというのに。だからブロディの最後は、ほんとにやるせなくて号泣でした。マクロの選択としては正しいとおもう自分と個人としては
それは許せない自分がいます。矛盾した彼らと自分の中にもある確かな矛盾。それらを体験できる作品です。

 

ものすごく内容をはしょりましたが、私の文章力では、細部をながなが語るとエンドレスになってしまいます。(もうすでに長くてだらだらしてますね。)ほんとホームランドは、ブロディの家族の事やキャリーのイスラム系の部下など見どころがいっぱいです。
まだまだ、おわっていない作品なのでこれからも追い続けたいと思います。

 

おまけ

正義の揺らぎからか、悪役にスポットをあてるディズにー作品も増えましたね。「マレフィセント」や「アナと雪の女王」など。
日本の歌もこの2015年代にAKB48の「僕たちは戦わない」の公式MVやSEKAI NO OWARI の「ドラゴンナイト」にも正義の不確かさがあらわれていて興味深いです。(あくまで個人的見解です)

 

この大きな正義に疲れると小さな共同体の絆に物語は帰ってくると思うのですが(ある意味トランプさんがまさにそれなので)どうなんでしょうね。日本人は日常生活の質を高めることに偏愛的なので、もともとそういう民族とは思いますが。